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終わらない夢

勘当同然で江戸に


「おう坂本先生、お待ちしておりました」
 と老中の青木隆行が、二台の駕籠《かご》を送って出てきた。
「おう、青木さん。この門番に話が通じんで困っちょる」
「それは申し訳ない。さっ、中に。慶喜様がお待ちしております」
「その駕籠、誰が乗ってるんじゃい」
 その声に、扉がスッと開いた。公家の衣冠束帯の衣装がチラリと見えた。
「お久しぶりですな、坂本さん」
 なつかしい岩倉具視だった。
「……岩倉さん」
 龍馬はなつかしさで胸が樓宇估值いっぱいになった。岩倉はやせたせいか、きつい目をしていた。
「岩倉さん、少しおやせになりましたか」
「ええ。近頃、恋わずらいで」
「はっ?」
「あたしがこんな冗談言うなんておかしいでしょう」
「そっ、そう思います」
「でも、ほんとなんですよ」
「はっ、はい」
 十年前、龍馬は土佐から出てきた。十九のときだった。二十五まで岩倉と遊んでいた。飯場暮らしでゴロツキまがいの生活だった。バ願景村クチが大好きで、二人で賭場《とば》を渡り歩いた。それも楽しかった。博学の男で、物の考え方の順序を教えてくれた。そしてまた、国とは何か、人生とは何かを教えてくれた男だった。文化も教えてくれた。文化とは、恥の方向性である。なにを恥じるかで、その国の行方は決まると。龍馬は敬服した。自分は仏の手のひらで遊ばせてもらっている孫悟空《そんごくう》のようなものだった。
 しかし、今、わしに向けられているこの憎しみのこもった目はなんなのか。わしが一体、何をしたというのか。
「岩倉さん。人間、人のかつぐ駕籠に乗星級導師るようになっちゃおしまいだと教えてくれたのはあんたじゃなかったですか」
「フフ、少し生き方を変えましてね」
「ですが、あんたにゃ似合いませんよ。駕籠も、そんなキラキラした着物も」
「乗ってみるとなかなかいいもんですよ」
「だから、そげんもんに乗っとったら、人が見えんようになるって教えてくれたんはあんたじゃったと言うとるんじゃ!!」
「フフフ、人を人だと思うたら、政はできんと教えたのもこのあたしでしたな」
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