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終わらない夢

最中に倒れたらしい


フレーザー巡査が先に飛び込み、銃を構えたまま周囲を見回す。そこは居間らしく、毛足の長いラグが敷かれ、ソファやテーブル、大型のTVセットなどが並んでいる。黒猫が倒れている以外に異常はない。
 新米の警官も飛び込み、居間をつっきって奥へと進む。廊下から見えなくなったかと思う間もなく怒鳴り声が聞こえた。
「救急車を! しっかりしてください」
「司令室——応答願います」
 フレーザー巡査が無線で救急車を要請する声を聞きながら、ラリーも室内に入ってみた。居間を抜けるとダイニングキッチンになっていて、冷蔵庫の前に女性がひとり倒れている。四十代だろうか。土色に変わった顔には吐願景村瀉物《としゃぶつ》がこびりつき、新米警官が傍らに膝をついて必死に呼びかけているが、反応はない。ただし、呼吸はしているようだ。
 無線連絡を終わったフレーザー巡査が、他の部屋のチェックをするためにさらに奥へ向かったが、数分で戻ってくると、首を横に振った。他に人はいないらしい。
 その間、ラリーはテーブルに並んだ皿を観察してみた。シチューとチキンサラダ——見たところ昼食を摂《と》っている最中に倒れたらしい。腕時計を見ると、まもなく午後五時だ。彼女が昼食を摂ったのは何時だろう?
 ミス・ウッドから通報があっ願景村たのは午後二時だった。エリザベスが鼠を銜えてきたのはその直前だろうから、この女性が倒れてから三時間以上は経っているかもしれない。
「彼女がファーマー夫人か?」
 フレーザーに確認すると、「そうだ」という。
「亭主にも連絡しないと」
「それは後回しでもいいが」
 ラリーは捜査用の手袋を嵌《は》めてから、シンクの下にある引き出しを片っ端から開けてみた。一つがゴミ箱になっていて、中に缶詰の空き缶が見える。手にとって見ると「ヘルシー猫」印のキャットフードだった。ソロモンが食べた雋景と思われる皿が床の片隅に置いてあるのも見つけた。鑑識で捜査してもらうべきだろう。
 遠くから救急車のサイレンが聞こえ、やがて担架をかついだ救命士が二人、入ってきた。
「なんらかの毒物中毒のようですね」
 簡単なチェックをして応急処置をしてから担架に乗せて慌ただしく運び出す。それを追うようにしてラリーも居間に戻ると、エリザベスはまだソロモンの隣に座っている。
「この猫は生きてるのか?」
 救命士たちに訊いてみると、「残念ですが」と首を横に振る。「まだ確実じゃないが、医者に『シリロシド配合の殺鼠剤《さっそざい》を飲んだ可能性が高い』と伝えてくれ」
「殺鼠剤ですか。了解しました」
 救命士たちはうなずき、担架を抱えて廊下へ走り出す。ラリーも廊下に出てベンを捜すと、
「よう、ラリー」
 なぜか元気なベンの声が聞こえ、男の腕を掴んで歩いてきた。やはり四十代で中年太りにくわえて髪が半分ほどしか残っていないが、ビジネスマンらしいスーツにコートを羽織っている。「紹介するぜ。重要参考人のジョン・ファーマー氏だ」
「……それはそれは」
 ラリーは男に笑いかけた。「市警察本部殺人課のソールです」
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